アリババはAGI(汎用人工知能)の追求をAI時代における最優先目標と定め、AI戦略の全社的な統一と実行を静かに進めている。表向きの大々的な発表はないものの、戦略の全体像は「3年基盤構築・10年目標達成」に向けて明確な構造を備えている。
その中心となるのが、アリババクラウド、Qwenモデル群とそのオープンソースエコシステム、さらにQuark・Taobao・AmapといったToCアプリケーションで構成されたAI実装プラットフォームだ。CEO呉泳銘のもと、AGIの実現を通じて次世代の生産力を獲得し、電商やクラウドなどの既存事業が受けた攻勢からの巻き返しを図っている。
特に今後3年間で総額3800億元(約7.8兆円)をAI基盤とクラウドインフラ整備に投資する計画は、過去10年分を上回る規模。生成AIの推論コストの劇的低下と普及、そしてAgent型AIによる業務効率化の需要拡大に応えるものとなる。
この文脈で、Qwenモデルのオープンソース化は技術ブランディングを超え、アリババクラウドの実質的な売上成長にも貢献。Qwenベースの二次開発が企業ニーズに適合しやすく、2025年2月時点でHugging Face上の派生モデル数は10万超と世界最多を誇る。これにより、Qwenモデル利用企業の多くがアリババクラウドの採用に踏み切っている。
さらに、アリババはモデル提供型サービス(MaaS)をクラウド事業の新たな収益源と位置づけており、Qwen APIの顧客が他のクラウドサービスを連動して利用する傾向が強いことから、クロスセルの観点でも戦略的に有効とされている。
一方、ToC領域ではAI技術を軸にしたアプリケーション改革が進む。Taobaoは買い物体験の改善、QuarkはAI検索を通じた国民的ツール化、AmapはMCPプロトコルに基づく生活サービス統合の実験を開始しており、これらがアリババのAI時代の主力アプリケーションとされる。
まとめると、アリババのAI戦略は既に公表を超えて実行段階にあり、「攻めの再構築」を軸とする構造改革が本格化している。AGIを旗印に掲げるこの新戦略が、中国のAI産業全体にどのような影響を与えるのか、今後の展開が注目される。