CAMELチームが開発した「OASIS」は、最大100万体のAIエージェントが仮想空間で交流する大規模シミュレーション環境だ。従来のAI応用がコード生成や自動化に集中する中、OASISは「社会の模倣と理解」を目的とした新たな方向性を打ち出している。
OASISにおけるエージェントは、大規模言語モデル(LLM)によって駆動され、それぞれ異なる性格や興味を持ち、投稿やコメント、フォローといった23種類の行動を行うことができる。システム全体は環境サーバー、推薦システム、推論エンジン、エージェントモジュール、時間エンジンの5つの中核モジュールで構成され、SNSにおける情報の拡散や意見形成のプロセスを高い精度で模倣する。
特筆すべきは、多数派効果や虚偽情報の拡散といった社会現象をAIエージェントによって再現可能な点だ。特定の投稿に対する仮想的な初期評価を与えることで、後続エージェントの評価傾向に影響が出ることも確認され、ネット上での群集心理や偏在的な情報伝播構造が明らかになった。
さらに2025年3月のアップデートでは、OpenAIのEmbeddingモデルに対応した推薦システム「Twhin-Bert」を導入し、より精緻なコンテンツ推薦が可能となった。また、LLM推論の並列処理を13倍高速化するマルチスレッド対応も加わり、大規模実験の処理効率が飛躍的に向上している。
今後は強化学習の導入により、エージェントの行動を現実の人間に近づけるシナリオも進行中であり、マーケティング戦略や情報拡散最適化、世論形成メカニズムの検証にも応用が期待される。さらに、OASISをベースに構築された「Matrix」では、X(旧Twitter)を模した環境が提供され、製品テストや社会実験のシミュレーションが可能だ。
OASISは、SNS上での複雑な社会現象を安全・大規模に模倣・分析できる革新的な基盤として、AI・社会科学・マーケティング分野における研究と応用を後押しする存在となっている。