2025年2月に上海で設立されたAIスタートアップ「TARS(它石智航)」が、設立からわずか50日で総額1.2億ドル(約180億円)のエンジェルラウンド資金調達を発表した。これは中国におけるAI具身知能(Embodied Intelligence)分野でのエンジェル投資として過去最大の規模となり、同社の存在が一気に注目を集めた。
出資には、藍馳創投(BlueRun Ventures)と啓明創投(Qiming Venture Partners)が共同でリードを務め、線形資本、聯想創投、高瓴創投などの有力ベンチャーキャピタルが名を連ねている。
TARSは、物理世界とロボティクスの融合によって知能を具現化する「AI具身知能」の実用化を目指す企業である。特徴的なのは、AIモデルの開発、ロボット本体の設計、ソフトウェアとハードウェアの統合、そして量産体制までを一貫して自社で行えるフルスタック技術体制を有している点であり、同分野では極めて稀な存在とされている。
技術面では、人間を中心に据えた「Human-Centric具身データエンジン」により、実世界から高精度な動的データを取得可能とし、さらに空間認識と推論・意思決定を一体化した具身大規模モデルを業界で初めて開発。このモデルにより、AIは物理世界において自律的な判断と行動が可能となる。TARSは、AIにおける次の「GPT的ブレークスルー」が具身知能領域に訪れると見ており、その技術的起点となることを目指している。
経営陣は、ファーウェイやバイドゥをはじめとする中国のトップ企業出身者で構成された精鋭チームだ。CEOの陳亦倫博士は、清華大学と米ミシガン大学で工学を修め、DJIで機械視覚技術を牽引、ファーウェイでは自動運転システムADS 1.0を主導。その後、清華大学AIRで知能ロボット研究を担当し、2025年にTARSを創業した。
首席科学者の丁文超博士は、ファーウェイの「天才少年」プログラム出身で、自動運転の予測・判断アルゴリズム開発を牽引。復旦大学では人型ロボット研究に携わり、マルチモーダルAIの応用にも注力している。そのほか、空間認識技術に精通した陳同慶博士(首席架構師)、マルチモーダルAI戦略と起業経験を併せ持つVincent(首席戦略官)、バイドゥの無人運転事業を牽引してきた李震宇(董事長)など、産業化と研究の両面で実績のある人材がそろう。
出資者側からの評価も高い。藍馳創投は、「中国の人材、サプライチェーン、応用シーンの強みが活かされる今こそ、世界水準の技術企業が生まれる」とし、TARSを「単なるロボット開発企業ではなく、産業課題の統合的なソリューションを提供する企業」と位置づける。啓明創投も、「TARSは技術開発から製品化、量産までを一貫して担える稀有な企業」として長期的な支援を表明している。
TARSは現在、上海にオフィスを構え、すでにコアチームが稼働中。今後はAI具身知能のさらなる進化と産業応用に向け、研究開発体制と人材採用を加速させる計画だ。