ジャック・マー、アリババのAI大転換を主導──3年間で3800億元(約7.8兆円)を投資し、TikTok超え狙う

出典:https://mp.weixin.qq.com/s/y8cRlRWNnfPRNk5l4SK22w

概要ポイント
  • ジャック・マーがアリババのAI全面転換を水面下で主導し、復帰感を強めている。
  • 今後3年間で3800億元(約7.8兆円)をAI基盤に投資し、事業構造を再構築。
  • 自社LLM「Qwen」はAppleの中国向けiPhoneに採用されるなど成果を上げている。
  • 各部門にAI活用を義務付け、QuarkなどのAIネイティブアプリ開発を推進。
  • 競合DeepSeekやバイトダンス、テンセントとの熾烈な競争が続く中、地政学リスクも重なる。
本文

世界的なAI技術の進化と競争が加速するなか、中国のテック大手アリババは創業者ジャック・マー(馬雲)の主導のもと、企業全体をAIに特化した構造へと大胆に転換しようとしている。その象徴が、2025年までに総額3800億元(約7.8兆円)を投じると発表したAIインフラ投資計画だ。この金額は過去10年間の同社の関連投資額をすべて上回る規模であり、アリババがいかに本気でAI時代に賭けているかを物語っている。


ジャック・マーは2019年に表向きのポストから退いたものの、社内の戦略的意思決定には引き続き強い影響力を持ち続けてきた。2023年、OpenAIがChatGPTをリリースしたことで生成AIの可能性が一気に可視化された際、マーはこの技術が世界経済の地図を塗り替える可能性を直感し、アリババの出遅れを痛感する。その後、彼は自身の側近であり共同創業者の蔡崇信を董事会主席に呼び戻し、技術部門で豊富な経験を持つ呉泳銘をCEOに任命して、AI領域での再起を図った。


アリババはまず経営構造の見直しから着手。2023年に発表した分社化構想では、グループ全体を6つの独立した事業体に分割し、それぞれが資金調達や上場を目指す方針を打ち出したが、市場の期待とは裏腹に経済環境の悪化でプランは頓挫。その後は、再び中枢機能を集約し、AI分野へのリソース集中を決断した。


現在、アリババは「Qwen(通義千問)」という独自の大規模言語モデル(LLM)を中核に据えたAI戦略を展開中だ。このモデルは、約100人の研究開発チームによって磨き上げられ、中国で最も先進的かつ規模の大きなLLMのひとつとされる。2024年初めにはAppleが中国市場向けのiPhoneにAI機能を導入するにあたり、Qwenをパートナーとして選定したことが明らかになった。これは米国などの市場でOpenAIと提携するAppleが、中国の法規制下では信頼できる現地モデルを必要とした結果であり、Qwenの性能と安定性が国際的に認められたことを示している。


また、アリババはBtoC向けAI戦略として、AIブラウザ「Quark」の強化にも注力している。QuarkはQwenの推論能力を搭載し、ChatGPTやGeminiに対抗する中国発の生成AIアシスタントとして急速に存在感を高めている。同社はさらに、すべての部門にAI活用を義務付け、2025年の業績評価指標にもAI導入実績を反映させる予定だ。コア事業であるEC部門(淘宝・天猫)も、AIによるユーザー体験と業務効率の改善に取り組んでおり、既にQwenチームとの連携が始まっている。


呉泳銘CEOは、「AIファースト」の価値観を全社に浸透させるとともに、企業文化の再生にも力を入れている。社内では「AGI(汎用人工知能)」の実現を長期ビジョンとして掲げ、AIを新たな“共通信仰”と位置づけている。財務面でも変革が進んでおり、呉の就任後15か月での資本支出は81億元(約1,700億円)と、前期比で2倍以上に増加。特に注目されるのが、AIスタートアップへの投資拡大であり、Moonshot AI(月之暗面)やMiniMax、Zhipu AI(智譜AI)など、LLM分野の有力企業に資金を投じ、自社クラウドプラットフォームを活用した連携を強化している。


ただし、こうしたアリババのAI戦略は順風満帆ではない。DeepSeekのように、限られた資源で高性能モデルを開発するスタートアップが台頭し、アリババのような大手に対する懐疑的な視線も存在する。バイトダンスやテンセントも巨額のAI投資を進めており、とりわけバイトダンスは2024年に120億ドル(約1.8兆円)をAIチップに投資予定とされ、競争は一層激化する見通しだ。


さらに、米中間の地政学的対立もアリババにとって大きなリスクとなっている。米国政府はNVIDIA製の先端AIチップ(H100、H20など)の中国向け輸出を制限しており、アリババのAI訓練環境に影響が出る可能性が高い。加えて、自社のチップ設計能力も世界最先端水準とは数年のギャップがあり、長期的な技術的自立が問われている。


それでも、アリババ内部では「希望と信頼が戻ってきた」という声も多く聞かれる。社内の士気はかつての“創業期”を彷彿とさせるほどに高まりつつあり、全社がAIという共通目標に向けて再び結束を強めている。今後、中国発の“TikTokを超える”次世代AIアプリがアリババから生まれるかに注目が集まっている。