中国の新興AIツール「Manus」が注目を集めている。Hugging Faceの製品責任者が「最も印象的なAIツール」と評し、Discordコミュニティは短期間で13万人以上を集めるなど、一見するとDeepSeekに続く大ヒットの様相を呈している。しかし、その実態には課題が多く残る。
Manusは独自開発ではなく、AnthropicのClaudeやアリババのQwenなど既存の大規模言語モデルを組み合わせ、高度な調整を施したものだ。開発元である中国企業「蝴蝶效応(バタフライエフェクト)」は、研究報告の作成から不動産購入、ゲーム開発まで多彩な応用例をうたうが、誇張的との指摘もある。
実際の使用体験では、Manusの実力に疑問が呈されている。エラーの多発や情報の誤り、繰り返しの処理で結果が劣化するなどの問題が報告されており、予約や注文など日常的なタスクにも対応できていない例が目立つ。特に、Manusが誇るAIエージェント機能は、一般的なチャットボットとは一線を画すとされるが、完全な自律実行には遠い。
さらに深刻なのがコスト構造だ。Manusのような高度なタスク処理では、一回の実行に100万トークン近くを消費し、1タスクあたり約2ドルのコストがかかると推計されている。仮に1万人のユーザーが1日2回使用するだけでも、月間のサーバーコストは120万ドル(約1.8億円)に達する。規模拡大に伴い赤字が膨らむ「スケールの逆効果」に直面しているのが現実だ。
このような状況下で、資金力とインフラを持つ中国大手企業の同様の製品が間もなく登場するとされ、Manusの立ち位置は一層厳しくなる可能性が高い。開発元はあくまで現状を「ストレステスト中」と説明し、改善への意欲を見せているが、技術的成熟には時間を要する。
一方で、中国国内のメディアやインフルエンサーは、Manusを「中国のAI新星」として過剰に持ち上げており、SNSでも過剰な期待を煽っている側面も否めない。公式ではないプロモーション動画も拡散され、誤解を助長している。
現時点では、Manusは概念先行型の製品であり、技術的信頼性や経済性の面で多くの課題を残している。将来的な進化への期待はあるが、「次世代AIエージェント」の座を確立するには、まだ多くの試練を乗り越える必要がある。