2025年3月3日、テンセントのAIアシスタント「元宝(Yuanbao)」が中国のApp Store無料アプリダウンロードランキングで1位を獲得した。急成長の背景には、DeepSeek-R1の完全版導入と、30日間で5億元(約100億円)を超える大規模な広告投資がある。テンセントは微信(WeChat)やQQといった自社プラットフォームを活用しながら、Bilibili、知乎(Zhihu)、小紅書(RedNote)など外部プラットフォームにも広告を展開し、特に自社広告ネットワークへの依存度は70%に達している。
しかし、AIアシスタント市場は機能の同質化が進み、ユーザーの定着率が低いことが課題となっている。競合する「豆包(Doubao)」や「Kimi」も、過去に大規模な広告投資を行いながら、30日後の継続利用率は1%未満と低迷している。この問題を受け、百度(Baidu)の「文心一言(ERNIE)」は広告投資を縮小し、競争から実質的に撤退している。こうした状況の中、テンセントは元宝(Yuanbao)をより多機能なプラットフォームへ進化させることで市場での差別化を図ろうとしている。
2025年2月末のアップデートでは、DeepSeekとテンセントのAI「混元(Hunyuan)」を統合し、画像の理解・生成機能を追加。ユーザーが犬の写真をアップロードし「このペットを飼う際の注意点を教えて」と質問すれば、元宝(Yuanbao)は画像を認識し、詳細なアドバイスを提供する。また、「芝生の上を走るハスキー犬の画像を作成」と指示すれば、即座に複数の画像を生成できる。さらに、微信(WeChat)公式アカウントの検索機能を強化し、今後は小紅書(RedNote)のコンテンツ統合も視野に入れている。
AIアシスタント市場の競争は激化し、各社が独自機能を強化している。Kimiは200万字の長文処理能力を持ち、即夢(Jidream)は動画生成機能の強化を進めるなど、各社が差別化を模索する中、テンセントは大規模な広告投資による市場支配を選択した。過去にも「微信支付(WeChat Pay)」や「元夢之星(YuanMeng Star)」で同様の戦略を用い、短期間で競争優位を確立してきたが、AI市場での長期的な成功は依然として不透明だ。
さらに、AI市場の発展により、従来の検索エンジンの重要性が低下する可能性も指摘されている。小紅書(RedNote)の検索利用者は急増し、2024年Q4のデータでは日間検索回数が6億回に達し、百度の約10億回に迫る勢いを見せている。3月6日には中国のスタートアップMonicaがAIエージェント「Manus」を発表し、従来のAIアシスタントとは異なる新たなアプローチで市場を揺るがせている。Manusは単なる検索やチャットではなく、複雑なタスクの計画・実行が可能なエージェントとして機能し、AI市場の競争構造を変える可能性がある。
テンセントの元宝(Yuanbao)がAI時代の主要プレイヤーとして生き残れるかは、今後の市場動向次第だ。2025年はAI業界が「期待から実績評価へ」と移行する分岐点とされており、巨額の広告投資を行ったテンセントの戦略が成功につながるかどうかが注目される。
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