2025年1月20日~24日、スイス・ダボスで開催された世界経済フォーラム(ダボス会議)に、清華大学智能産業研究院(AIR)院長の張亜勤氏が登壇し、AIの国際協力、自動運転技術の発展、生成AIのリスク管理について講演を行った。「Robots on the Move: From Talk to Action」分科会では、AIRの「Real2Sim2Real(RSR)」技術を紹介し、仮想空間と現実世界のデータ連携を強化することで、ロボットや自動運転技術の開発コスト削減と実用化を加速できると述べた。また、AIRの「DISCOVER実験室」による車路協調(V2I)や製造直結(C2M)といった応用分野での研究が進められていることも強調した。
「International AI Development and Cooperation」分科会では、AIの発展は国際協力の成果であり、中国の科学者・技術者も重要な役割を果たしていると指摘した。特に、深層学習のResNetアーキテクチャは、彼が創設に関与したマイクロソフトアジア研究院の若手研究者が提案し、百度のApollo自動運転プラットフォームには世界200か国から10万人以上の開発者が参加していることを紹介。さらに、AIを活用した創薬技術では、遺伝子レベルでの薬剤スクリーニングデータベースを構築し、『Nature』誌にも成果を掲載。また、AI病院の開発により、診断から治療までの全工程を自動化し、医療サービスの質と効率を向上させていると述べた。
生成AIの発展に伴い、誤情報の拡散や倫理的リスクが増す可能性があることにも言及し、技術と倫理の整合性を確保する国際的なAIリスク管理フレームワークの必要性を訴えた。すでに中国・米国・英国・EUの科学者が参加する国際安全対話が進められており、今後も国際協力を強化することでAIの健全な発展を目指すとした。
「The Business of Autonomous Vehicles」分科会では、カナダの自動運転企業WaabiのCEOとともに、自動運転の商業化について議論。安全性と信頼性の向上、規制整備と政策対応、ビジネスモデルの多様化が重要であり、技術の発展にはより高度なAIアルゴリズムの開発が不可欠だと指摘した。また、今後の自動運転技術の進展について、2025年~2030年の間に自動運転が人間の運転能力を超える可能性、大規模AIモデルの活用によるL4レベルの自動運転技術向上、多モーダルデータの統合やクラウドと車載システムの連携による意思決定能力の向上、車路クラウドの協調発展による安全性と効率性の向上、2030年までに新車の10%がL4レベルの自動運転機能を搭載する可能性を示した。
今回のダボス会議では、AIと自動運転の発展に関する国際的な議論が行われ、張氏は技術の進化と商業化を促進するために国際協力と規制の整備が不可欠であると強調。今後、清華大学AIRは最先端技術の研究開発と産業応用の推進を通じて、世界の自動運転およびAI分野の発展に貢献していく方針を示した。
<張亜勤氏の経歴>
張亜勤(Zhang Yaqin)は、中国を代表するAI・自動運転技術の専門家であり、現在は清華大学智能産業研究院(AIR)院長を務める。
- マイクロソフトアジア研究院(MSRA)創設(1999年)
AI研究の拠点として、世界トップレベルの研究機関へと発展させた。 - 百度(Baidu)総裁(2014年~2019年)
AI・自動運転・クラウド事業を統括し、Apollo自動運転プラットフォームの立ち上げに貢献。 - 清華大学AIR院長(2019年~現在)
AIと自動運転の産業応用を推進し、「Real2Sim2Real(RSR)」技術の開発を主導。 - IEEEフェロー・中国科学院院士
計算機科学と人工知能分野で数百件の特許を持ち、多くの論文を発表。 - 「AIは第四次産業革命の基盤」説を提唱
AIの国際協力の重要性を訴え、産業発展に貢献し続けている。