ByteDanceが2025年1月下旬に発足させた「Seed Edge」は、AGI(汎用人工知能)の研究をより深いレベルで推進する新たなプロジェクトだ。すでに大規模言語モデル「豆包(Doubao)」シリーズの開発などで実績を重ねてきた同社だが、Seed Edgeの活動範囲はさらに基礎段階へと踏み込む。「次世代推論」や「新たな学習パラダイム」といったトピックを含む5つの研究テーマは、いずれも“すぐに目に見える成果が期待できる”領域ではなく、長期的かつ不確定要素の多い領域に焦点を当てている。
本プロジェクトの背景には、ByteDance創業者である張一鳴氏の強いAI志向がある。張氏は自ら論文を読み込み、海外の一流研究者や未卒の博士学生とも積極的に対話するなど、技術的なディテールにも関心を持つ。さらに、新加坡国立大学出身の研究者をはじめとするチームが張氏をサポートし、最先端のAI動向を把握しながら研究開発計画を立案しているという。こうしたトップダウンの強力なリーダーシップは、“中国インターネット大手の中でも調整や決断が素早い”と評されるByteDanceの企業文化とも親和性が高い。
従来の大規模モデル開発チーム「Seed」が担ってきたのは、例えば大規模データの収集からモデル設計・実装、そして短期スパンでのモデルアップデートや応用アプリの開発などである。実際、同社の大規模モデル「豆包」はMoE(Mixture of Experts)の手法を活用し、少ない“活性パラメータ”で高い性能を出すことで注目を集めた。さらに、独自に整えたデータ生成と検証のパイプラインにより、他社モデルに依存しない形での学習を推進している。その成果として、豆包をベースにしたAIアプリのユーザー数は中国国内でトップクラスとされる。
一方、今回発足したSeed Edgeは、こうした“短期でのモデル発表や利用拡大”とは異なるアプローチを取る。研究者にはより長い評価期間が与えられ、不確実性の高いテーマに対しても大規模なリソースを投入する方針だという。たとえ数か月から半年ほど目立った成果がなくとも、後に大きなブレイクスルーがあれば過去の評価を“遡及”して補填する仕組みも整えられている。まさに“挑戦的な研究”を促す体制を築いていると言える。
すでにByteDance内には、動画生成やビジョン・言語モデルなどの基礎研究分野で国内トップクラスと評されるエンジニア・博士研究員が集結している。Seed Edgeではこれまで以上に学術的な研究活動を重視し、学会への論文投稿や異なる技術コミュニティとの連携を図る動きも加速させる見込みだ。実際、同社から発表されるAI関連の研究論文数は増加傾向にあり、世界規模の学会でも高評価を得つつある。
AGI研究は「企業の目標に直結する」テーマとは言い難いが、技術革新を牽引する潜在力を秘めている。OpenAIの創業メンバーやDeepMindなど海外の先端組織が、長期的な視点で未知の領域を切り開いてきたように、中国のインターネット大手企業でも新たな方向性を示す可能性がある。ByteDanceは“拡大の時代”を経て、いよいよ“奇跡と新発見”を求める局面に入りつつある。Seed Edgeの活動成果がどのような形で現れ、AGIの実用・基礎研究双方にどんなインパクトをもたらすのか、多くの研究者が注目している。