Baichuan AI(百川智能)でツール責任者を務めた徐文健は、2023年末に同僚とともに新たなスタートアップ「火星電波(Mars Radio)」を創業し、わずか2カ月でAI音声Agent製品「ListenHub」を開発した。同製品は、ユーザーの入力に応じて人間味のある音声コンテンツを生成するもので、ユーザーの人格・記憶・ライフイベントを反映したパーソナライズ体験の構築を目指す。
ListenHubの特徴は、ユーザーの意図分析・人間的表現・音声生成という三段階のエンジン構成にあり、技術的にはLangChainなど従来の枠組みとは異なる独自のAgent設計を採用している。徐文健自身は「Agent技術には“玄学”的な部分もある」と語り、直感と試行錯誤を重視する姿勢を見せた。
創業時から注力したのはチームビルディングだった。火星電波は8人で構成され、清華大学出身の実習生から専門学校卒まで幅広い背景を持つメンバーが「自走可能なAIネイティブ組織」として活躍している。履歴書よりも“成長性”や“価値観の一致”を重視する採用方針を採り、チーム内での自主性を軸に運営されている。
ListenHubは、生成された音声の長さを短く抑え、ユーザーに“気軽な傾聴体験”を提供することにフォーカス。短時間での情報摂取と感情共鳴を両立させることを狙っており、DAU(1日あたりアクティブユーザー)は1,000人を超える。商用モデルはサブスクリプション制で、収益化は主に海外市場に期待している。国内ではユーザーからのフィードバックを元に改善を継続し、精度と満足度の向上を図る。
競合製品として、豆包(Doubao)などの大手が類似機能を提供し始めているが、徐文健は「競争ではなく共創」という立場を取り、プロダクト哲学と独自性を武器に事業を推進している。また、初期からグローバル展開を視野に入れ、コストを抑えながらも20名以下の精鋭体制での運営を堅持する方針を示している。
徐は「起業はまるでブラックホールのようだ」と語りながらも、「30歳で本当の自分に出会えた」と話し、AI時代の新たな音声Agentの可能性を信じて前進している。